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旭川地方裁判所 昭和47年(わ)124号 判決 1973年5月09日

被告人 平沼忠司

明四〇・一・三〇生 無職

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中三五〇日を右刑に算入する。

押収してある大麻草合計約四七〇グラム(昭和四七年押第二四号の5および6)を没収する。

本件公訴事実中傷害致死の点については、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、常習として

一、昭和四六年三月六日ころの午前六時ころ、旭川市宮前通西通称忠別川厚生部落の被告人方において明実こと玉手美代子らと飲酒中、些細なことに立腹し、左手で同女の頭髪をひつぱり、右手拳で同女の顔面を数回殴打する等の暴行を加え、よつて、同女に対し、通院加療約一〇日間を要する右上中切歯、側切歯外傷性破損の傷害を負わせ、

二、同年六月二七日午後五時三〇分ころ、同市神居町三条一一丁目「こばちやん食堂」こと長内裕子方店舗において、間宮健光らと飲酒中、労務賃金の前借金の分配のことから同人と口論となり、いきなり所携のナイフで同人の前頸部を一回突き刺し、よつて、同人に対し、全治まで約一週間を要する左前頸部切創の傷害を負わせ、

三、同年八月二八日ころの午後四時ころ、同市八条六丁目「あずま食堂」において飲酒中、偶々同店に居合せた張間松之進に対し些細なことから立腹し、やにわに同人の首を締め左足首あたりを足蹴りにするなどの暴行を加えて同人を坐っていた椅子から転落させ、よって、同人に対し、加療約三日間を要する左下腿擦過創の傷害を負わせ、

四、同年九月一八日ころの午後六時ころ、上川郡上川町層雲峡大雪ダム工場現場森林工業小野組飯場一階二号室において小田春志らと飲酒中、些細なことに立腹してやにわに同人の左小指、顔面などにかみつき、もつて、同人に対して暴行を加え、

五、同年一一月九日午後四時ころ、前記被告人方において河村鉄雄らと飲酒中些細なことから同人と口論となり、いきなり、その場にあつた日本カミソリで同人の左顔面を切りつけ、よつて、同人に対し、全治約五日間を要する左顔面切創の傷害を負わせ、

第二、法定の除外事由がないのに、昭和四六年一〇月下旬ころ、赤石繁と共謀のうえ、前記被告人方付近にはえていた野生の大麻草を採取し、右大麻草約四七〇グラム(昭和四七年押第二四号の5および6)を、右被告人方において所持し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯前科)

被告人は、昭和四五年四月九日旭川地方裁判所で傷害罪により懲役六月に処せられ同年八月九日右刑の執行を受け終つたものであつて、右事実は検察事務官作成の前科調書および被告人に対する昭和四五年四月九日付判決書の謄本によつて認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条ノ三前段(刑法二〇四条、二〇八条)に、判示第二の所為は刑法六〇条、大麻取締法二四条の二第一号、三条一項にそれぞれ該当するところ、被告人には前記前科があるので刑法五六条一項、五七条によりそれぞれ再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中三五〇日を右刑に算入することとし、押収してある大麻草合計約四七〇グラム(昭和四七年押第二四号の5および6)は判示第二の犯罪行為を組成したもので犯人以外の者に属さないから同法一九条一項一号、二項を適用してこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書によりこれを被告人に負担させないこととする。

(一部無罪の理由)

本件公訴事実中傷害致死の点は、

被告人は昭和四六年一〇月二七日午前六時ころ、旭川市宮前通西通称忠別川厚生部落の被告人方において、赤石繁および玉井岩男と飲酒し、些細なことから右玉井と口論の末激昂して、右赤石と共謀のうえ、右玉井の頭部等を鍬の柄で殴打し、同人をその場に昏倒させて同人の顔面、胸部、腰部等をこもごも足で蹴り踏んづけ、さらに、右赤石において被告人の腰紐を右玉井の頸部に巻き締めつける等の暴行を加え、よつてその頃同所において同人を右暴行による肝臓破裂の傷害により失血死させたものである。

というのである。

審理の結果によると、玉井岩男(当時四〇年)が昭和四六年一〇月三一日午前一一時ころ旭川市宮前通西忠別川右岸川原、忠別橋の下流約六四、七メートルの地点において死体となつて発見された事実を認めることができ、また、被告人は捜査段階では被告人が公訴事実にあるような暴行を加えて同人を死に致らしめたものである旨の自供をしていたことが窺えるが、被告人の右のような自供を内容とする供述調書等については、すでに当裁判所が昭和四八年二月三日付の決定でそれらがいずれも証拠能力を欠くものであるとして検察官からの証拠調べの請求を却下しており、他に被告人が本件犯行を犯したことを認めるに足りる証拠はなく、従つてこの公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し右の点について無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

編注 本件の証拠調べ請求却下決定(昭和四八年二月三日付)は、刑裁月報五巻二号一六六頁に掲載ずみであるので参照されたい。

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